目を背けた先。

とある大学生が雑多なことを書いています。目を背けたっていいよね。だって、Moratoriumだもの。

カラマーゾフの兄弟 ー ドストエフスキー(翻訳 原卓也)

ロシア文学の最高傑作、いや、全小説の頂点ともいわれるカラマーゾフの兄弟。上中下にまたがる長編小説。 どんなタイプの話とカテゴライズできない性質の物語であり、家庭小説なのか、恋愛小説なのか、推理小説なのか、、、読み取り方によっても、箇所によっても大きく異なるだろう。しかし、そのどの面においてもキリスト教的思想が血のように通っており、キリスト教についての考え方などは、感覚的に多少理解することができた。
読み終えてまず感じたことは、この小説が一人の頭の中から生み出されたとは思えないということである。それほどまでに緻密であり、多角的に事象が観察され描写されている。特に、最後のドミートリイの裁判での、検事と弁護士の弁論ではまんまとドストエフスキーの掌の上で踊らされている感覚になり、むしろとても愉快だった。 それにしても、この小説は感想が書きにくい…。何に関して書けばいいのかわからない。きっとどう書いてもまとまらない。上中下あるが、その中で無駄な、不必要なページがおよそ1ページも見つからない。これもすごい。また、とても細かいところだが、「一本の葱」が日本でいう芥川龍之介の蜘蛛の糸ととても似た話だったことに驚いた。
この本が今までの小説と呼んだ感覚と大きく異なっている点は、もう一度読み返したいという感覚である。またその時にはまた全く異なった読み取り方ができるであろうし、感じる感覚も全く違うものだろうと思う。その感動が楽しみで、いまから待ち遠しい。
ただ、一つ気になることは、はじめにおいて「アリョーシャという卑劣漢」のような紹介のされ方をしており、また、「この小説は2部で、その2部を書くためにつまらない1部を読んでもらわないと困る」のような文言が出てきたように思うのだが、結果としてアリョーシャはいい人、2部もないという状態、つまりこの小説が未完成であるということは興味深い。それに、この「つまらない第1部」が"これ"なのであれば、第2部をよんだら一体どうなってしまうのだろう?どんな劇的な2部だったのだろう?二部に大きな影響を与えるであろう人物も幾人か居る。アリョーシャとリーズはどうなるの?コーリャって今後重要な役割を果たすんじゃないの?うぅ、気になる…。

また、今回読んだ新潮文庫から出ている原卓也さんの翻訳についても、とても読みやすく、かつ多すぎない程度の的確な注釈が入っており非常に理解に役に立った。
ともかく、この小説を飲み込みはしたけれど、消化するには結構な時間がかかりそうではある。全くもってお腹いっぱいである。ごちそうさまでした。